グーグル社員の働き方から学ぼう! 『How Google Works』の書評

『How Google Works』

今や、Googleはインターネットの世界を支配している。メイン事業である検索エンジンの進歩はもちろん、Googleマップは3Dで見られるようになり、Gメールなしでは生活できない。私などはもはや、Google帝国の忠実なる臣民のひとりといってもいいだろう。

そんな圧倒的影響力を持っているGoogleだが、会社のマネジメントや社員の働き方を綴った『How Google Works 私たちの働き方とマネジメント』という本がある。これを読んだので、内容を要約しつつ、書評を書いておきたい。

Googleは一種のパラダイス?

本の序盤、Google本社の様子が素描される。大きな社屋、バスケットボールやテニスのコート、まるで子供の隠れ家みたいな作業スポットに、らせん状の滑り台。そこは資金潤沢な私立大学のキャンパスのようでもあり、子供の頃に見ていた百貨店屋上の遊び場のようでもある。

そんなビジュアルを見て、Googleはパラダイスかと思った。会社といえば、通常イメージするのは四角くて灰色のビルと、中にはぎっしり島になった灰色の机、そしてその上に置かれたパソコンや書類など。他にはコピー機や書類棚が並んでて、観葉植物が所在なさげに佇んでいる……こんなのがありきたりな風景だろう。

だが、Googleは違う。そこで働くことはとても楽しそうだ。憧れる。そう、ビジュアルをちょっと見ただけで、そこで働きたくなる! ここがまずは一番驚かされた点だ。

けれど、もちろんGoogleの働き方、マネジメントの本質は他にある。やや羅列的になるかもしれないが、紹介していこう。

スマート・クリエイティブという理想像

『How Google Works』の中で頻出する固有名詞がこのスマート・クリエイティブという言葉だ。おそらく、「グーグル」と同じくらいよく出てくる。これはGoogleの社員を表す言葉であり、理想像でもある。

直訳すれば「頭がよくて、創造的な人物」ということだ。いかにもGoogleや先進的なIT企業が好みそうな人物像である。ただ、もっと具体的な定義というか性質が書かれていたので、箇条書きにまとめてみよう。

スマート・クリエイティブの特徴

  • 高度な専門知識を持っており、経験値も高い
  • 分析力が優れている
  • ビジネス感覚が優れている
  • 競争心が旺盛
  • ユーザーのことがよくわかっている
  • 斬新なアイデアがほとばしり出る
  • 好奇心旺盛
  • リスクをいとわない
  • 自発的
  • あらゆる可能性にオープン
  • 細かい点にまで注意が行き届く
  • コミュニケーションが得意

「こんな条件を全部備えてるやつなんていねーよっ!」というヤジが今にも飛んできそうだ。だが、現実にこの条件をすべて備えてる人がほとんどいないということは著者たちも認めている。だから、理想像なのだ。とはいえ、いくつかを備えていれば、その人はスマート・クリエイティブと呼ばれる。

この中には「会社への忠誠心があつい」とか「労を惜しまずに働く」といった要素は含まれていない。およそ「会社員」と聞いてイメージするような美徳はほとんどない(最後の2つくらいか)。知識や知能、創造性やリスクを取るという気質など、Googleはそもそも従来型の組織人というより卓越した個人の集合体を理想としていることがわかる。

Googleがもっとも重視するのは企業文化

社員としてはスマート・クリエイティブだけを置いておきたい。そこで大事になってくるのが企業文化だ。こう書かれている。

たいていの人が職を探すときに重視するのは、職務や責任、会社の実績、業界、報酬などだ。リストのずっと下のほう、おそらく「通勤時間」と「自由に飲めるコーヒーの質」の間ぐらいに「文化」が出てくるかもしれない。だがスマート・クリエイティブはリストの一番上に文化を持ってくる。実力を発揮するには、どんな環境で働くかが重要だとわかっているからだ。新しい会社やプロジェクトを始めるとき、検討すべき一番大切な項目が文化であるのはこのためである。

引用元:『How Google Works』p.62

会社の文化というものについては、私はほとんど考えたことがなかった。

一応は就活をしたこともあるが、企業側からも就活生側からも、あまり……というか、ほとんど「文化」という言葉は出てこない。この着眼点も独特だ。

だが、言われてみればこれは納得できる。確かに、組織において、そこを支配している空気や性質、つまり、文化が果たす役割は大きい。通常、企業の文化についてあまり語られないのは、無意識のうちにそれを制御不能なものだとして諦めているからかもしれない。

Googleのスローガン「邪悪になるな」

これはGoogleの企業文化を形成する、もっとも重要なスローガンだと思うが、こういう言葉が紹介されていた。「邪悪になるな」だ。

企業として、邪悪なことをしてはいけない。不正に加担したり、ユーザーの不利益になるようなことをしてはいけない。これがGoogleの大事にしていること。本の中では、この「邪悪になるな」という原理に基づき、中国での事業から撤退した顛末が語られている。ときに大きな利益を放棄してでも、Googleはこのスローガンを貫徹する。

『How Google Works』を読んでいてこの話題に差し掛かったとき、日本人が脳裏に思い浮かべるのはきっと三菱自動車や日産、神戸製鉄のニュースだろう。例えば三菱自動車は不正を行い、会社ぐるみで隠蔽し、さらに一度発覚した後もまた隠し通そうとした。まさに「邪悪になった」例だ。ユーザー視点は完全に抜け落ちていたし、倫理観も崩壊していた。

ビジネスというと生き馬の目を抜く世界で、倫理に背いても会社の利益を追求する……。なんだか、そんなイメージもある。ちょっと昔の日本企業では、それがよしとされていた部分もあったかもしれない。しかし、Googleは完全にそことは違う。

倫理に従ってふるまうことが、企業としての強さに繋がる。これは個人の場合もきっと同じだ。

プロセスを重視すること

欧米の大企業というと、成果を重視するイメージがある。何をしようと、結果さえ出せばいい、と。あるいはそういう企業もあるのかもしれないが、Googleが重視しているのはプロセスだ。何かを決定するとき、プロジェクトを進めるとき、Googleはそのプロセスを重視する。

正しい意思決定のあり方を考えるうえでまず理解すべきは、正しい選択をすることだけに集中していてはいけない、ということだ。判断に到達するプロセス、タイミング、そして判断を実行に移す方法も、判断の内容そのものと同じくらい重要なのだ。

引用元:『How Google Works』p.252

判断のプロセスというのも、文化を同じで、下手をすると意識しないところだ。偶然や慣例に左右されて、それで済ましてしまうことが多い。そこを意識してゼロから考え直すという姿勢に独自性がある。

「抗脆弱性」を持つ強靭な組織を作る

ちょっと難しい言葉だが、「抗脆弱性」という言葉が出てくる。大事なのは失敗しないことではなく、失敗したときにそれに耐えうる組織を作るということ。一度、二度の失敗で瓦解したり、隠蔽せざるを得ない状況に陥るのではなく、むしろ、失敗を糧にできる組織を作ること。

理想としては理解しやすいが、実際にこれを大きな組織として実現するのは難しそうだ。

やはり、失敗を認めてそこから成功へ繋げていくという「抗脆弱性」を獲得するためには、上で紹介した「邪悪になるな」というスローガンが基礎となりそうである。ズルとしたり隠蔽したりすると、なかなかその失敗というのは公にできないし、次へつなげづらい。だが、商品・サービスのユーザーのためにリスクを取ってやったことなら、その失敗を恥じずに済む。

ゼロからの組織構築

この本『How Google Works』を読んでもっとも強く感じたのは、会社組織というものをゼロから、かなり念入りに設計しているというGoogleの姿勢だ。日本でも「働き方改革」について議論されているが、それは既存組織の構造はそのままでプライベートな時間を増やすとか、有給を取りやすくするとか、そういうレベルに留まっている。

しかし、意思決定のあり方とか倫理に関わる実効的なスローガンを極めて意識的に構築しているGoogleのやり方を見ると、「とても敵わない」という気がしてくる。

この本を読んで、今の会社組織のあり方を改善しようとか働き方を変えていこうと考える人もあるかもしれないが、すでに文化が形成されてしまった組織でGoogleのやり方を取り入れることができるのか? それは極めて疑問だ。たぶん、一部分を取り入れてもうまく機能しないし、一度形成された文化を完全に作り変えることも難しい。となると、なかなかこの本を日本企業にいる人が活用するというのは現実的に難しそうである。

これは著者たちもおそらく感じていることで、この本は古い体質の企業の社員や経営者に向かっては書かれていない。むしろ、今は大学の研究室や学生寮、あるいは自宅ガレージで虎視眈々と新しいビジネスを立ち上げようとしているスマート・クリエイティブたちに向かって書かれている。

「会社」と「仕事」が変容していく

ページをめくりながら何度も思ったことがある。それは「こんな会社で働いてみたかった」ということだ。クリエイティブであることが奨励され、リスクを取ることが許容され、職場の2階から1階まで滑り台で降りられる会社、そんな会社で働きたかった。

「会社」や「サラリーマン」という言葉には、幼い頃からネガティブなイメージしか持っていなかった。行きたくないのに行かなければいけない場所、嫌なことをガマンしてやる場所、それをやっている精彩を欠いた黒いスーツの男たち、そんなイメージしかなかった。たぶん、みんなそうだろう。そして、今も。

皮肉なことに、今Googleで「会社」と検索すると、よくある検索フレーズ(Googleサジェスト)として「会社 意味」の次に「会社 辞める」が出てくる。3つ目は「会社 休む」だ。

しかし、今後は会社も仕事も、その意味がガラリと変わっていくだろう。全員がスマート・クリエイティブになることは難しいだろうが、少なくとも、理想の働き方として浸透していくのではないだろうか。Googleの働き方とマネジメントをモデルとして。そう期待したい。


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