受信料、払わなきゃダメ? NHKワンセグ裁判の行方は……

裁判所

インターネットでも受信料を徴収しようと動き出しているNHKだが、受信料に関しては問題が山積している。その中の一つ、国民の関心が高いのがこれ、「ワンセグでも受信料を払わなきゃいけないのか」という問題である。個人的な体験も絡み、この問題については裁判の経過をチェックしているので、そのことについてお伝えしたい。

ワンセグのみで契約させられた!

2年ほど前、私は油断していた。それまで10年ほど一人暮らしをしていたのだが、私はNHKの受信料を払っていなかった。契約もしていなかった。「見ているのに払わない」という姑息なことはしていない。実際、テレビは一度も部屋に置かなかったし、だからNHKなど見られる環境ではなかったのだ。

しかも、NHKの集金人が来たときも、「テレビはありません」と言えばそれで片が付いた。集金人はあっさりと引き下がってくれた。面倒なときは居留守もずいぶん使ったが、少なくとも不正はしていない。

そうやってNHKには1円も払わずに済ませていたのだが、2年前である。引っ越しをしたとき、また男がやってきた。制服も来ていない、二人組でもないとなれば、十中八九、NHKの集金人である。

「NHKの受信料の件でお伺いしました」

インターホンのカメラを見ると、ずいぶん若い。そのせいというわけでもないが、私は「はい」と応じ、ドアを開けてしまったのだ。

で、「テレビはありません」と例のように告げ、それで終わるかと思いきや、その若い集金人は「携帯電話をお持ちですよね?」と来た。当然、「ええ」と返す。

「ワンセグ機能も付いていますよね?」

こう質問されたので、私は「わかりません」と応えた。

実は、本当はわかっていた。私の携帯電話にはワンセグ機能があったのだ。いっそ「ありません」とウソをついておけばよかったのだが、それができず、「わかりません」という中途半端な応え方をしてしまった。

「では、機種を確認させていただきたいのですが」

こう来たので、マヌケな私は持っていたガラケーをわざわざ見せてしまった。非常に悔やまれるところだ。そして、その機種を確認した職員は手持ちの端末を使い、それがワンセグ機能ありのものかどうかを確認。

「ありますね。では、受信料のご契約をお願いしたいのですが」

こういう流れとなってしまった。

私はそのガラケーを買って数年、テレビを見たのは購入してすぐのときだけ、トータルで2時間にも満たないくらいだ。NHKなんかたぶん一回も見ていない。なのに、契約させられてしまったのである。

話を聞くと、その集金人はまだ大学を出たところ。まさか新卒でNHKの集金人になる人がいるのかと驚いたが、そういう話だった。そんな新人の集金人に、私はあえなく敗北してしまったのである。

ワンセグのみで受信料を払わなければいけないのか

しかしそもそも、ワンセグしか持っていないのにNHKの受信料を払わなけければいけないのだろうか。まずはNHKの受信契約について書いた放送法64条を見てみよう。

協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。

つまり、NHKが見られる「受信設備」を「設置」していたら、NHKと契約しなければならないということだ。家にテレビを置いていて、NHKが映るのなら、この法律によってNHKと契約しなければならない。

だが問題は、ワンセグ機能のある携帯電話がこれに該当するのかということ。

たしかに、ワンセグがあればNHKの放送は受信できる。携帯電話が「設備」かどうかは微妙だが、そこはいいとして、いちばん引っかかるのは「設置」という部分である。

「携帯電話を設置した」

こんな言い方をするだろうか?

固定電話は、設置するものである。しかし、携帯電話はそもそも「設置」しなくていいから、「携帯」電話というはず。普通の日本語の感覚で言えばそうだろう。

「設置」を辞書で引くとこのようにある。

設置

① 機械・設備などを備えつけること。 「ごみ箱を-する」
② ある目的のために、組織の中で、新たな部署や部門をおくこと。 「委員会を-する」 〔類義の語に「設立」があるが、「設立」は独立した一つの組織・施設・機関などを新しく作る意を表す。それに対して「設置」はある目的に役立つように機械などを備えつけたり、組織・施設・機関などの一部として新たに部署を作ったりする意を表す〕

出典:大辞林 第三版

設置
1 施設や機関などを設けること。「災害対策本部を設置する」
2 機械などを備えつけること。「消火器を設置する」

出典:デジタル大辞泉

やはり、携帯電話を「持つ」ことを設置というのは無理がある。

したがって、ワンセグ機能があってNHKが視聴できようとも、それをもって放送法第64条が適用されることはなさそうだ。

NHK側の見解

だが、NHK側はワンセグでも受信料を払えという。契約しなければならないという。実際に公式サイトに何と書いてあるのだろうか。「よくある質問集」の中に見解が書かれているので、そのまま引用しよう。

Q パソコンや携帯電話(ワンセグ含む)で放送を見る場合の受信料は必要か

A NHKのテレビの視聴が可能なパソコン、あるいはテレビ付携帯電話についても、放送法第64条によって規定されている「協会の放送を受信することのできる受信設備」であり、受信契約の対象となります。NHKのワンセグが受信できる機器についても同様です。

このように書かれている。パソコンもワンセグも「協会の放送を受信することのできる受信設備」なのはいいとして、しかし、ここでは携帯電話が「設置」と言えるかどうかには言及されていない。

なのでサイトをもっと詳しく見ていくと、「日本放送協会放送受信規約」というものがあり、ここにさらに踏み込んだことが書いてある。第1条の後半を引用しよう。

受信機(家庭用受信機、携帯用受信機、自動車用受信機、共同受信用受信機等で、NHKのテレビジョン放送を受信することのできる受信設備をいう。以下同じ。)のうち、地上系によるテレビジョン放送のみを受信できるテレビジョン受信機を設置(使用できる状態におくことをいう。以下同じ。)した者は地上契約、衛星系によるテレビジョン放送を受信できるテレビジョン受信機を設置した者は衛星契約を締結しなければならない。

大事なのは、2つ目の括弧の中。「設置」の説明として、「使用できる状態におくこと」とある。

つまり、NHKとしてはこう言いたいのだ。

「放送法の中にある『設置』というのは物理的な意味ではなく、概念的な意味で、『使えるようにすること』を指す」

果たして、この主張が通るのだろうか?

ワンセグ裁判

さて、ここでようやく本題に入る。裁判である。2016年、ワンセグしか所有していない状態でNHKと契約しなければならないのかどうかがさいたま地裁で争われた。

訴えを起こしたのは埼玉県朝霞市の市議会議員である大橋昌信氏。立花孝志氏が代表を務める「NHKから国民を守る党」の党員である。

この裁判では上に書いたように、ワンセグを持つことが「設置」にあたるのかどうかが争われたのだが、判決としては「設置にはあたらない」となった。大橋議員が勝ち、NHKが負けたのである。

さいたま地裁の判決は、常識的な日本語の感覚に合うものだった。やはり、携帯電話を「設置」というのは無理があるのだ。

さらに、放送法の中身を見てみても、「設置」の中に「携帯」の概念が含まれないことが見て取れる。ここは少し難しいのだが、確認してみよう。

先ほど見たように、放送法第64条の中に、この「設置」という文言が出てくるのだが、実は第2条を見ると、第14号で「設置」と「携帯」という2つの文言がならんで出てくる。引用しよう。

「移動受信用地上基幹放送」とは、自動車その他の陸上を移動するものに設置して使用し、又は携帯して使用するための受信設備により受信されることを目的とする基幹放送であつて、衛星基幹放送以外のものをいう。

この中身はまったく問題ではない。大事なのは「設置して使用し、又は携帯して使用」というふうに、「設置」と「携帯」が区別されて用いられているところだ。この部分では、明らかに「設置」と「携帯」は違う意味で使われている。言い方を変えれば、「設置」の中に「携帯」は含まれないと考えられているのだ。もし「設置」の中に「携帯」も含まれるのなら、わざわざ「又は」と付け加える必要はないのだから……。

しかも、この第2条は第64条よりあとにできている。

第64条は放送法ができた昭和25年からある。一方、第2条は平成22年の改正でできている。

ここで重要になってくるのは「後法は前法を破る」という原則である。「後法優越の原理」ともいう。要は、あとからできた法律と前々からある法律では、時間的にあとにできたものが優先されるという法律の考え方だ。

これを適用すれば、放送法という同一の法律の中では第2条の方が後にできているのだから、「設置」の解釈について、「携帯」を含まないとする第2条が第64条に優先することになる。

だいぶ堅苦しい説明になってしまったが、わかりやすく言えばこうだ。

放送法という同じ法律の中で、2条と64条とで「設置」の意味がちょっと違うけど、それなら新しい方が優先されるでしょ? っていうか、法律ってそういう原則があるんだよ。もしそれがおかしいっていうんなら、2条を作ったときに64条の方も改正すればよかったわけで、それをしてないじゃん? してないってことは、「設置」の意味に関しては2条が正しいって認めたことになるよ?

だいたい、こんな感じ。

いろいろ書いたが、つまりはワンセグを持つことは「設置」にあたらないわけで、受信料契約をする必要はない。それが、さいたま地裁が出した答え、判決なのである。

課税要件明確主義

以上のように、「設置」が「携帯」を含むのか含まないのか、あれこれ細かく考える必要があるのかと疑問に思う方もあるかもしれない。NHKが見られるなら契約が必要。実際にワンセグでも見られるんだから、テレビと同じ扱いでいいじゃないか、と。

しかし、さいたま地裁の判決によれば、NHKの受信料については「課税要件明確主義」が適用されるというのだ。これは憲法83条84条から派生してくる考え方なのだが、要は、「税金を取るなら、その要件はだれにでもわかるように明確に法律で定めなさいよ」ということである。

「NHKの受信料は税金じゃないじゃん!」

たしかにその通り。だが、NHKは国家機関に準じた性質のものと考えることができる。受信料というのはほとんど税金に等しいものなのだ。だからこそ、契約を迫るための法律は、その文言は、明確である必要がある。それなので、「設置」についても明確にしておく必要があるということである。

ワンセグ裁判のこれから

さいたま地裁でのワンセグ裁判は、大橋氏が勝利した。NHKが負けたのだ。

だが、NHKはいまでもワンセグで受信料契約を迫ることを辞めていない。今日このときにも、日本全国でワンセグしか持っていない人に対し、「ワンセグでも契約が必要なんです」との説明を続けている。上記のような知識がない人の中には、そういうものかと思って受信料を払ってしまっている方も大勢いるだろう。

NHKは第一審での判決は間違ったものであるとのコメントを出していて、最高裁で負けない限り、主張を覆すつもりはないらしい。

だから、私を含め、これまでワンセグのみで契約して受信料を払ってしまった人も、さいたま地裁での判決をもって、NHKに返金してもらうことはできない。いや、できるのはできるのだが、いちいち個別に裁判を起こして勝つことが必要なのだ。さすがに、それはなかなか面倒である。

不当にお金を取られたことは腹立たしいが、契約書なども残していないし、とりあえずはワンセグ裁判の経緯を見守っていこうと思う。

追記:水戸地裁でNHK勝訴

上の記事を書いてからおよそ5か月が経過した。2017年5月、水戸地裁で争われていたワンセグ裁判で、NHK側が勝訴。結局、水戸地裁では「設置」の中に「携帯」も含まれるという判断が下されてしまったのだ。

もちろん、これでワンセグに関する裁判が終わりというわけではなく、舞台は最高裁へと移ることになる。が、最高裁の裁判はとにかく時間がかかる。ワンセグで受信料の契約義務があるかどうか、最終的な司法判断が下されるのは5年後とか6年後になってしまいそうだ。

NHK側はホームページにてこの水戸地裁を判決を取り上げ、「妥当な判決と受け止めています」と書いている。何によせ、まだまだワンセグだけでも受信料契約を求めてくるようだ。

しかし、そうこうしているうちにワンセグというのもそれほど利用されなくなり、ワンセグ裁判の重要性は薄れていきそうである。国民の関心も、ワンセグよりはインターネットでの受信料徴収の方へと移っていくだろう。

まとめ

ワンセグ裁判のポイントは、放送法64条にある「設置」という文言が「携帯すること」も含むのかどうかであった。さいたま地裁の出した答えは「ノー」、水戸地裁では「イエス」と判断が分かれた。普通の国語の感覚で言えば、携帯電話を持つことを「設置」とは言わないわけだが、水戸地裁の裁判官の考えは違ったようである。

ワンセグ裁判の行方は気になるところなのだが、別件で裁判を起こしても、もう目新しい解釈は出てこないだろう。というか、おそらく水戸地裁の判決がスタンダードなものとなりそうだ。最高裁でどうなるかは分からないが、数年後に結論が出たところで、ワンセグ受信料の問題は重要性を失っているに違いない。

ちなみに、いま現在、ワンセグのみお持ちの方はどうしたらいいかと言うと、「ワンセグで契約する気はない」と拒否すればオーケーである。さいたま地裁の判決が出ても、NHK側が契約を迫っていたように、こちらも契約を拒否して構わない。それでも契約の義務があると言われれば裁判を起こしてもらうか、こちらから提起して、決着をつければいい。

この流れからすると、勝てそうな気はしないけれど。