糖質制限を人類史から考えてみた|人間は小麦の詐欺の被害者!?

小麦

糖質制限が流行っている。単に摂取カロリーを減らすのではなく、炭水化物・糖質を減らすことによって健康的に痩せようという新しいダイエット方法だ。ロカボなんていう言い方も生まれている。

けれど、人間の主食といえばパンやご飯、つまりは炭水化物であり、糖質だ。これを減らすなんて、そもそも人類のあり方に背くことなんじゃないか? とりわけ日本人は昔から米を食ってきた。それを制限するなんておかしいじゃないか!

というわけで、糖質制限というこの怪しいダイエット法を人類史という大きな視点のもとで考えてみた。ヒントとなったのは一冊の本である。

糖質制限ダイエットって人類史的にどうなの?

私が初めて糖質制限の考え方に触れたのは整形外科にかかったときだった。その時、医者がやたらに糖質制限について熱弁し始めたのだ。

医者
学生だったらあんまりお金がなくて、食生活が炭水化物に偏りがちでしょう? 牛丼とかね、安いけど米ばっかりで肉が少ないし。コンビニのお惣菜でもいいから、とにかくたんぱく質を多く取った方がいいよ。米は少なめにね。

こんな話をしばらくしていた。

米ばかり食べてはいけないという医者の言葉は意外で、私の胸中に湧いてきたのはこんな疑問である。

「人類はずっと米を食べてきたし、日本人なら米を食えばいいだろう」

なんせ、お米というのは日本人の主食。ずっと食べてきた。瑞穂の国なんて言葉もある。その米を減らした方が健康にいいだなんて、にわかには信じられない。銀シャリを口いっぱいに頬張る。それは健康食のお手本みたいなものじゃないのか?

おにぎり

ただ、医者の言うことだし、その後、糖質制限やロカボという言葉もよく聞くようになったので、多少は肉類を多めに食べるようにはしていた。釈然としない気持ちを抱えながら……。

『サピエンス全史』を読んでわかった人類史の真相

セブンイレブンのレバニラ炒めを白飯なしで食べつつも、私はこう思っていた。

「やっぱり日本人は昔から畑を耕して稲作をしてきたんだから、米は食った方がいいんじゃないか」

そもそも稲作をして、米を収穫し、それを美味しく炊いていただくのが日本人として自然な姿。いや、欧米人だって小麦を栽培しパンを作っている。やはり炭水化物は人類にとって欠かせないもののはず。

けれど、この人類のイメージを打ち壊してくれたのが、以前にもレビューをしたこの本である。ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』。

『サピエンス全史』の感想|虚構によって生きる、われらサピエンス

2017.08.18

この本を読むと、なんとなくの人類史のイメージが打ち砕かれ、人類の本当の姿が見えてくる。私は漠然と「人類は昔から農耕をしていたからそれが自然な姿だ」と思っていたわけだが、実は違ったのだ。

農耕革命が起こる前、人類は狩猟採集時代にあった。

しかも、農耕革命が起こって人類が農耕を始めたのは1万2000年前だが、その前の狩猟採集時代はなんと、それよりはるかに長い、何百万年というスパンで続いていたのだ!

『サピエンス全史』の104ページにこう書かれている。

「人類は二五〇万年にわたって、植物を採集し、動物を狩って食料としてきた」

そう、本来の人類、もともと自然に近い人類の生活様式・食生活ということでいえば、こっちなのだ。

農業をやって米やパンという糖質をメインで食べ始めたのはたかだか1万年ちょっと。人類史のスパンの中で見ればほんのつい最近のことにすぎない。

マンモス

みんなでマンモスを追いかけていたあの頃……

さらにいえば、生物の遺伝子というのは数千年、数万年程度ではさして変化しない。21世紀に生きる私たちの遺伝子は、マンモスを追っかけていた狩猟採集時代の人類に比べてほとんど変わっていない。今でも、人間の体は圧倒的に狩猟採集による食生活に適合したものと考えるのが自然である。

人類史を眺めると、「日本人なら米を食うべし」という思い込みなど簡単に吹っ飛んでしまう。

人類は小麦と稲の奴隷になった!?

さて、長い長い狩猟採集時代のすえ、人類は農業革命を迎え、小麦を育てるようになった。では、これは人類にとっていいことだったのか? 一見すると、「もう斧を持ってマンモスを追いかけなくてよくなったから、楽になってよかったじゃん」とも思える。

だが、『サピエンス全史』で語られる事実はまったく違う。

「平均的な農耕民は、平均的な狩猟採集民よりも苦労して働いたのに、見返りに得られる食べ物は劣っていた。農業革命は、史上最大の詐欺だったのだ」(p.107)

なんと、農業革命は詐欺だというのだ!

農耕によって豊かで楽な生活が実現したかと思いきや、実態はまったく逆。食べ物は悪くなるし、労働に縛られるようになるし、農耕は人類にとってはまるで詐欺にかかったようなものだった。

「では、それは誰の責任だったのか? 王のせいでもなければ、聖職者や商人のせいでもない。犯人は、小麦、稲、ジャガイモなどの、一握りの植物種だった。ホモ・サピエンスがそれらを栽培化したのではなく、逆にホモ・サピペンスがそれらに家畜化されたのだ」(p.107)

人類は、炭水化物である「小麦、稲、ジャガイモ」らによって詐欺にかけられた……実にセンセーショナルな出来事である。

さらに、栄養面についての指摘を引用しよう。

「人類は多種多様な食べ物を食べて栄える、雑食性の霊長類だ。農業革命以前は、穀物は人類の食べ物のほんの一部を占めていたにすぎない。穀類に基づく食事は、ミネラルとビタミンに乏しく、消化しにくく、歯や歯肉に非常に悪い」(p.109)

ここまで言われると、もはや穀類に対する感謝なんて消えてしまう。「何が瑞穂の国じゃい」という気分になってくる。毎日ご飯が食べられることはありがたいことだという教育を受けてきたが、むしろ、米に対する憎悪すら湧いてくるではないか!

奴らは人間を朝から晩まで畑仕事に従事させ、それまで経験したことのなかった肉体的苦痛を生じさせた。毎日働かなければいけない状況を作り上げた。さらには凶作や飢饉への恐怖を生じさせ、終わることのない不安に人類を陥れたのだ。

畑に向かう老婆

今日の日本では、主に老人が畑の作物どもの被害者となっている

そうしておいて、それまで弱小の植物でしかなかった奴らは文字どおり世界中に広まっていった。個体数を天文学的な数にまで増やした。そして、地表のかなりの面積を我が物顔で占領し、今日ものんきに風に吹かれ、自身は一歩も動かないまま人類に世話を焼かせている……。

おお、小麦が憎い! 稲が憎い!

糖質制限は人類史の過去へさかのぼること

『サピエンス全史』によって、糖質豊富な小麦や稲の詐欺行為が暴露された。奴らが人類に行った悪事が白日の下にさらされたわけである。ちくしょう、よくも1万年も詐欺してくれたもんだな、という気分だ。

だが、こうした農業革命(=人類総家畜化計画)の実態を暴いて見ると、糖質制限の正しさが際立ってくる。糖質制限、あるいはロカボは、人類史に照らせば極めて正しいことなのだ。

糖質制限は、長い奴隷状態から解放され、かつての狩猟採集民の食生活に戻ることに他ならない。

木の実を拾う女性

木の実を拾って食べていた、自然なあの頃に戻ろう……

まとめ

以前、医者が糖質制限を勧めてきたとき、「こいつは何を言っているんだ?」と思った。日本人は米を食って生きてきたんだ。欧米人だって、パンという糖質を食っている。それを制限するなんて、人類の長い歴史に照らして不自然だと感じていた。

だが、『サピエンス全史』における農業革命の実態暴露により、私のその思い込みは崩壊した。

むしろ、小麦や米を遠ざける糖質制限は、人類史に照らせば極めて真っ当な行いである。稲作文化がたかだか1万年か2万年、でも狩猟採集時代は数百万年。それを思えば、人間のからだは肉・果実・木の実を食べる方が自然だし、健康にいい。

人類史的に見れば、糖質制限は小麦と稲の詐欺からの解放なのだ。たぶん。