また、あれが届いた。日本学生支援機構、通称JASSOからの封筒である。表には仰々しく「重要書類」と書かれている。「そろそろ返還して欲しいんですが、どないでっしゃろ?」という内容である。金融機関からの郵便というのは怖いものだ。
だが、日本学生支援機構はサラ金や闇金ではない。昨今は奨学金ビジネスに苦しむ若者が取りざたされ、いかにも血も涙もない取り立てをやっているかのように報じられるが、実は返還猶予や減額返還という制度がちゃんとあり、利用しやすくなっている。
今回はJASSOに減額返還の願いを提出したので、必要な書類、書き方、例文などをこまかく解説していこう。
もくじ
奨学金はどんなときに返還猶予・減額返還できるのか
送られてきた封筒の中を見れば書いてあるのだが、JASSOの奨学金はこんな場合に返還猶予・減額返還がお願いできる。
- 傷病
- 生活保護受給中
- 入学準備中
- 失業中
- 経済困難
この中で現実的に多いのは失業中と経済困難だろうか。会社をやめたりリストラされた場合は、まずは失業を理由に返還猶予を願い出ることになる。フリーターや非正規雇用、自営業などで所得が少ない場合は経済困難だ。私もこれである。
経済困難を理由にする場合で給与所得者であれば、基準となる収入額は年間300万円。つまり、アルバイトやパートならばだいたい基準以下となるし、フルタイムで働いていたり正社員でも若手だったりすれば猶予・減額してもらえる可能性はある。
NHKのクローズアップ現代プラスで奨学金破産をする若者が特集されていたが、年収が少ないならちゃんと猶予・減額をしてもらうべきである。延滞してしまうと信用情報も傷つくし、いいことが何もない。ちなみに、自己破産しても債務は連帯保証人(多くは親がなっている)に行ってしまい、実家を根こそぎ持っていかれかねないので注意。払えないならちゃんと申請をしよう。
猶予か、1/2減額か、はたまた1/3減額か
猶予か減額、どちらにするか選べるのだが、なんと今年から1/3の減額というオプションが追加となった。最近は奨学金問題が騒がれているからなのか、JASSOが新しい選択肢を追加してくれたのだ。

封筒を見た段階では、今年はまだ猶予をお願いしようと思っていたのだが、この1/3減額という制度を知って、これなら大丈夫そうだと思った。実際、この1/3減額返還を選んで申請した。ありがたいことである。
減額返還といっても、もちろん返すべきお金の総額が変わるわけではない。最終的には返しきらなくてはいけない。これは当然なのだが、しかしこの減額返還制度のすごいところは、返還完了までの年限が延長されるというところだ。
通常であれば20年で返済完了しなければいけないところ、たとえば1/3減額返還を15年間利用したとする。すると、最終的な返済完了は開始から30年後でよくなるのだ。ちょっとややこしいが、要するに、減額してもらったらそのぶんあとで毎月の返還額が増えるわけではなく、期限が延長されるということ。減額してもらうことにより、期限の利益までゲットできるというお得な制度なのである。
もちろん、猶予でも支払い期限は延長されるのだが、これは最長で10年だ。一方、1/3減額は最長15年だ。1/3なら毎月多くても1万円程度で、だいたい払えるだろう。もし収入がフリーター程度であれば、期限の利益が大きく、ちょっとずつでも借金が減っていくこの1/3減額がおすすめである。
猶予・減額はいつからいつまで?
基本的に、猶予も減額も、毎年申請し直す必要がある。では、一回の提出でお願いできる猶予と減額の期間はというと……
猶予の場合
できるだけ早い時期から、指定の月(12ヶ月以下)まで
1/2減額返還の場合
できるだけ早い時期から、2の倍数の月数(2ヶ月から12ヶ月から選ぶ)まで
1/3減額返還の場合
できるだけ早い時期から、3の倍数の月数(3ヶ月から12ヶ月から選ぶ)まで
いずれの場合でも、開始は書類を提出してからなるべく早い月とすることができる。書類提出は返済が開始される前々月末までに出すことになっているので、これに間に合えば、ちゃんと次回返済月から猶予・減額にしてくれるはずだ。
ちなみに、少々提出が遅くなった場合でも、「できるだけ早い時期から」を選択しておき、リレー口座の残額をゼロにしておけば、延滞扱いにならずに猶予してもらえる場合もある。というか、私が一度それをやったことがある。JASSOに確認する必要はあるが、書類が間に合いそうにないときでも諦めず、このような対処を検討してみよう。
期限は、ごらんのように、割と細かく選ぶことができる。が、猶予や減額を申請するときというのはだいたい予定が見えないだろうから、まあ、12ヶ月を選んでおけばいいだろう。もし余裕ができたら、はやめに通常の額で返済することもできる。
猶予・減額返還の必要書類と書き方
この手の事務手続きはなんだか煩雑な気がしてしまうが、そんなことはない。少なくとも、経済困難での申請はそれほどめんどくさくない。猶予・減額の場合にJASSOに送る書類は以下の3種類だけである。
- 奨学金減額返還願、または猶予願
- 提出前チェックシート
- 市・県民税(所得・課税)証明書(原本)
上2つはJASSOからの封筒に入っているもの。最後の1つは収入が低いことを証明するもので、町役場や市役所で出してもらえる。
まず、1つ目の書類だが、これはJASSOのホームページに記入例があるので、それを見ながら書くとスムーズだ。
減額返還・記入例(リンク切れ)
特に迷うような項目は見当たらないが、いちばん下の経済事情と今後の返還見通しの部分は少しこまるかもしれない。例文を載せておくので、参考にして欲しい。
大学新卒時に就職した会社でリストラされ、その後も正社員としての就職ができず、現在はアルバイトで生活しています。収入は月に15万円で、家賃が月に5万円、食費に3万円、その他に光熱費や携帯電話代、インターネット代で3万円が支出されます。余裕はありませんが、3分の1であれば返還可能です。
現在、アルバイトをするかたわら、正社員をめざして就職活動を行なっています。今年中には就職し、安定した収入を確保しようと思っています。就職が決定した場合には、はやめに通常の額で返済を再開いたします。
記入欄がせまいので、この程度で充分だろう。返還見通しの部分では、なるべくはやく返済をするという意志を表明しておいた方がいいと思う。
最後に、所得を証明するための書類だが、これは3つの中から選ぶことができる。
- ア 住民税非課税証明書(原本)
- イ 所得証明書(原本)
- ウ 市・県民税(所得・課税)証明書(原本)
私は最初、聞き覚えのあるアかイの書類を取ろうと思った。町役場に入り、税務課の窓口へ行き、「住民税非課税証明書か所得証明書が欲しいのですが」と告げた。が、窓口にすわって書類を書いていると、おじさんが私の持っていたJASSOの書類に目を留め、「こちら見せていただいてもよろしいですか」ときた。
で、見せてみると、「ウの書類が、アとイをあわせたような内容となりますので、こちらをご用意しますね」と言って、ウを用意してくれることとなった。なかなか親切である。
正直、私にはどの書類がどういうものかよくわからなかったので、このように対応してくれると心強い。
宛名を書いた封筒に入れて郵送
最後、用意した3種類の書類を封筒に入れて、郵送しよう。えっ、返送用の封筒はないのかって? そんなものはJASSOは用意してくれていない。自分でコンビニでもホームセンターでも行って買ってくるしかない。私はたまたま家にあった微妙なサイズの封筒を使った。普通郵便で送って120円かかった。

宛先はJASSOからの書類に書いてあるが、ここにも掲載しておこう。
〒162-8412
東京都新宿区市谷本村町10-7
独立行政法人 日本学生支援機構 返還部返還猶予課
最後、「御中」をつけるのも忘れずに。
延滞せず、猶予か減額を願い出よう
以上のように、JASSO奨学金は猶予も減額も、願い出るのがそう難しいものではない。テレビで奨学金問題についての特集を見ていると、さも苦しいところから無理やり取ろうとしているかのような印象を受けるが、きちんと書類を出せば何とかなるのだ。
これをめんどくさがってサボり、延滞となってしまうと話がややこしくなる。クレジットカードが使用できなくなったり、連帯保証人に請求がまわったり、しかも一括での返済を求められたりする。一般人が数百万円を一括返済するとなったら、不動産を処分するくらいしか方法がないだろう。それは怖い。
ぜひ、余裕を持って猶予なり減額の申請を出すようにしたい。